今年6月、政府の経済財政の基本方針、いわゆる「骨太の方針」が発表された。大きな柱に挙げられているのが、三位一体の労働市場改革による構造的賃上げの実現と人への投資の強化、分厚い中間層の形成がある。賃上げについては、これまで積み上げてきた経済成長の土台の上に、構造的な人手不足への対応をしながら人への投資を強化していき、労働市場改革を進めることで賃上げを実現してくことを基本方針としている。
具体的には、「リ・スキリング(Reskilling)」、「職務給の導入」、「成長分野への円滑な労働移動」の3つを柱として「三位一体の労働市場改革」を進めるというもの。DXの進展によって大きな変化が起こり、職務内容も変化していく。職務給(ジョブ型)導入に際しては、「リ・スキリング」によって得た職務能力に応じた処遇がおこなわれていく。
スキルアップやキャリア形成を目的とした“転職”が当たり前になり雇用の流動化が進み、職務能力に応じた雇用へと変わっていく。新卒一括採用、年功序列、終身雇用という従来の雇用習慣には戻れない時代がやってくる。
ジョブ型雇用の先行事例がアメリカだ。一般公募か社内公募による採用で業務内容に応じた雇用体系となる、実力主義の環境であるので転職によってより良い待遇の職場を選択していく。アメリカの企業では従業員の階層がほぼ固定される。上級職員(経営幹部)は、大学院卒でMBA(経営学修士)などの資格を持ち、成果によって報酬が査定される。中級職員は、査定で大きな差がなく月給制で命じられた仕事をする。ブルーカラー労働者は、時間制で働き、日給や週給となる。企業内での階層移動は難しく、学歴や資格などによって職務への応募要件がある。このため、階層が固定化されることによる経済格差がアメリカの社会病理を生む一因ともなっている。ジョブ型の労働では、学歴による社会的格差が生まれ、そうした格差が生涯にわたるという側面があるようだ。
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サイトより画像引用
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5ヵ国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国)の「転職」に関する意識調査では、「仕事で、昇進・昇格したい」は、日本46.4%で最下位。他の国では7割前後という結果になっている。競争を嫌がる人たちが日本では多くなっているということかもしれない。そうしたなかで、政府が進めようとする「三位一体の労働市場改革」は相当に険しい施策であり、成果を得るには相当な政策実行力が必要だろう。
経済的な格差による、学歴格差や経済社会活動での格差。国際的には「低学歴社会」といわれる現状を踏まえれば、「ジョブ型の働き方」を進めることは難しい。もちろん、「ジョブ型の働き方」による能力発揮によって得らえるものはおおきいのだが。
教育改革や私たちの生活意識の変容までを視野に入れた社会改革が本当に必要か?という問いを抱えつつ世界的なトレンドとなったDX社会へと向かっていく。とすれば、「ジョブ型の働き方」の歪みをどうすれば最小に止めることができるかという社会的な制度設計が必要になっていくのだろう。
うむっさん