具眼の徒をまつ



 東京都美術館で「生誕300記念 若冲展」が4月22日から5月24日に開催された。入場待ち時間は、3時間以上、ときに5時間もの行列が出来たようだ。熱中症対策として給水所が設けられたほど。多くのみなさんが並んだが、待ち時間の長さを忘れる素晴らしい作品群の虜になったようだ。

 来場者のお目当ては、『動植綵絵』。京都相国寺に寄進した「釈迦三尊像」の周囲を飾るための30幅の作品群。若冲50歳の時に24幅を寄進し、30幅すべてを寄進終えたのは55歳。この、寄進にあたって「千載具眼の徒を竢つ」という言葉を残している。

 当時は邪道と考えられているような技法で作画されている、若冲の作品。しかし、相国寺に寄進され、法要の時に公開された際には大変なにぎわいだったようだ。

江戸の画家 伊藤若冲 生誕300記念展(東京都美術館ポスター引用)


 若冲は、京都の錦小路高倉の青物問屋に生まれて、23歳の時に、父の逝去によって家業をつぎ、40歳に家督を弟に譲り、その後、84歳で没するまで、画業に専念することになる。そんな中、明和8年(56歳)高倉錦小路市場の存続にも尽力した。

 若冲作品のモチーフには「鶏」が多い。『群鶏図』、13羽の雄鶏は羽根の色や表情が細かく描かれている。自宅の庭に鶏を飼い、観察とデッサンを長い間続けた末の作品となっている。まさに、躍動するその一瞬を切り取ったような描写と絵画としての構図や色合いとなって見る者を魅了してやまない。

 無学、無芸、無趣味で、酒色も遠ざけ、ただひたすらに「絵」を描き続けた、若冲。その生涯をかけて『絵』を極めていった。その作品の一つ一つに生命をこめていったのだろうか。常人には成しえない偉業に言葉はない。
          
投稿:うむっさん