高齢化社会を迎えて
身近な問題に取り組もう!!! 
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                                                            ライター 千遥

 

 「一人住まいで認知症」となった方に対する近隣の人々の心配事は、火災の発生と想定される。Aさんの一週間は月水金はディサービスへのお出かけ、火木のヘルパーさんの来宅は固定されている。日曜日の午後は集会所での囲碁サークルだから、かなり外部の人々との接触は増えている。しかし一人で暮らし、炊事も入浴なども自分で行うこともあるわけだから、誰でも火災発生を心配している。

 最近Aさんからは、Bさんや他の方々にも「盗まれた」とか「...で困ったよ」と言う言葉が聞かれなくなったので、症状は安定しているように見える。当団地建設以来36年間にわたって住んでいる筆者も、団地内で火災の発生は耳にしていない。ディサービスの会社やヘルパーさんから団地管理人にも特別変わった情報はないので、Bさんたちも、とりあえずは安堵している。
 
 高齢者の見守りなどでは、これまで、民生委員という方が当団地にも時折訪ねてきた。しかし、形ばかりの安否確認でサッサと帰ってしまうことが多かった。と言うよりも、すべての民生委員が同様の有様だった。どことなく頼りなさそうなおばさんが大半であったし、自分の紹介もしないから何処の誰かも分からない。
 何かあったら、市との連携で素早く対応してくれると信じていたが、過去において、そのように見える方は来られなかったのが現実である。そんな無責任に似た仕事ぶりが今年になって改善されることになった。200戸ほどの団地内の人々のみを担当する民生委員が誕生したからである。

  
 少し固い役所言葉でかけば、民生委員とは下記のような方になる。

 民生委員は民生委員法に規定され、地域社会に根ざした無給の相談援助職である。任期は3年で、都道府県知事の推薦を受け厚生労働大臣が委嘱する。市町村の福祉事務所などと連携しながら活動。

 民生委員は児童福祉法の規定で児童委員を兼ねており、地域の子供の健全育成にかかわる行事や児童相談所との連携、虐待通告の仲介など子供とその親の相談援助を担っている。
 民生委員兼児童委員の援助に、高齢者や障害者への支援、生活保護など主に大人を対象としたものが多くを占める実情の中で、子育て支援や虐待対応など、子供の福祉を主に担う人的資源確保の要請から、主任児童委員が1994年に創設された。

 児童委員の中から厚生労働大臣が指名し委嘱する。民生委員は戦前の方面委員制度が前身で歴史が長いが、現代の福祉行政の市町村主体・権限移譲の中で、地域福祉の最前線の担い手としてその役割が以前にも増して期待されている。

 鎌ヶ谷市のホームページから「民生委員」を検索すると、各地区ごとに担当する民生委員も氏名も表記されており、正体不明だった民生委員の姿も浮き彫りとなった。

 民生委員の仕事も、かなり具体的に記載されている。
 鎌ヶ谷市のホームページによれば、「鎌ケ谷市では、厚生労働大臣から委嘱された149名(うち12名は主任児童委員)の民生委員・児童委員の方々が、障がい者、高齢者、母子、児童問題などの相談、助言といった地域福祉を増進するために活動している」とあり、仕事の内容はかなり巾広い。直近の改選日は2013年12月1日であった。これは認識不足で筆者の頭には全くなかった。




           



 先日、当団地内の住民を担当範囲とする民生委員の方とお会いする機会に恵まれた。市役所から提供されたと思われる住民台帳を手に、一軒ずつ訪ねている様子であった。お顔を拝見したら、親しく話したことは無いが、当然顔見知りの方であった。年齢は69歳と言われるから、まず職務は遂行できるであろうと判断した。しかしながら、一人暮らしや高齢夫婦二人の家庭の健康状態などの実態を掴むのは、かなり難しそうに感じた。

 その一つの例をあげてみよう。私が最も詳しい「Aさんの家は訪ねましたか」と問いかけてみた。答えは、既に訪問しており「お元気そうで、特に問題はないように感じた」とのことである。
   
  

 ここで、筆者はちょっとガックリきた。民生委員Cさんの奥さんは以前、当団地のコミュニティ委員会のメンバーであった。当然Aさんの状態も知っていたし、旦那様にも伝えてあると信じていた。しかし、それは無かったようである。一般的に、認知症を患っている人に限らず介護を受けている人は、他人からの病状の問いかけに対して、実態よりも軽い症状を答えることが多いと言われている。介護している身内の者からみれば要介護3と答えてほしいのだが、本人は陽気に返答するから役所の認定は「要介護2」で査定されてしまう。こんなことで、介護する身内の方々は苦労している。

 民生委員のCさんは、認知症のAさんの言葉を信じて「何も問題はない」と判定した。これを聞いて、一瞬筆者は言葉を失った。やはり日頃の付き合いのない方は、突然ご本人に会っても実態を知るのは難しい。いくら本人に直接会って面談しても分からないことを知るべきなのだ。認知症のAさんは自分の身体がどのような状況にあるのかさえ、知らないのだ。ディサービスの車が迎えに来るから、単純に乗るだけ。自分が認知症であることを全く「認知」していないのだから、人前では結構調子よく喋る。これにコロリと騙されては民生委員の仕事は務まらない。

 そこで筆者はBさんになり代わってAさんのこれまでの状況を説明し、現状もお話しした。これでCさんも今後の対応がとり易くなることだろう。さらに民生委員のCさんは、お年寄り見守りのために団地内女性有志で作られた「コミュニティ委員会」のメンバーにも加わることになった。役所から任命された民生委員と、地元有志による高齢者見守りの「コミュニティ委員会(助け隊)」との合流は、情報の共有化にもつながり、より良い方向に向かうものと信じている。



                


 今年の2月、思ってもみない事件が当団地で発生した。3階建ての最上階に住む、一人暮らしの男性が孤独死しているのが発見されたのだ。直接的な切っ掛けは、団地管理員が見回りの際に一階の郵便受けにチラシ類が溜まっていることを不審に思い、3階の玄関には多くの新聞が差し込まれたままになっていた事にある。このようなことは、よく見かける光景でもあるが、入居者が一人であることに気づき、警察への連絡を行った。合鍵は管理員も所持していないため、近くの金物屋さんに開けてもらい、警察官が入った。そして男性の死亡を確認したのである。

 この遺体は直ちに搬出され、警察側で司法解剖なされたものと思われる。警察官が入室した際、管理員は入居を許されなかったため、遺体も見てなければ、内部の状況も一切知らされていないのが実態である。通常、3階まであがるのは、亡くなった男性と、向かいの家の方々。それに新聞配達人位なものであろうか。団地の閉鎖性は、こんなところにも窺われる。新聞が溜まっていたら、向かいの家か新聞配達人が少しでも配慮すれば、こんな事態にはならなかった。と、思われるのだが。

 孤独死した男性は当初69歳と言われていたが、実際は60歳と判明した。当団地では、5年ごとに「入居者に万一の事があった場合」に備え、親族や親戚など身近な人の連絡先などを記入した書面を提出している。この事件の後、その提出の実態はどうか聞き出した結果は、1割程度が未提出であることが判明した。死去した男性は2回にわたり、書面を提出をしていなかった。これにより、何処かにおられるであろう親族への連絡も出来ない状態にある。

 一方、警察側では殺人事件とは見ていないものの、孤独死した男性についての情報を全く知らせない。死後何か月だったのか、死因は何か。発見時の遺体の状況はなど.など....。ここまで秘密にする必要があるのか、おかしい警察側の対応である。その後は市役所への問い合わせなど遺族を探していたようだが、誰かを見つけたという話は漏れてこない。遺体は火葬され、骨壺が市役所に預けられて、宙に浮いたままと聞いている。男性の居室も、どう処分するのか。これもケリがつけられない。現在は放置されたままになっている筈だ。

 こんな孤独死を避けるために、一人住まいの方や老老介護の家などを見守りをすべく「コミュニティ委員会」が作られ、活動しているが、管理会社などが個人情報の流失に拘りすぎるために、逆効果となっている。親類縁者などの未提出者に対する督促はどうだったのか。建物の管理費は自動引き落としだが、預金を入れておかねば管理費は滞納扱いになる。このような方は、おおむね決まっている。これらの支払いの督促によっても、未払い家庭の状況は掴めるし、万一の事故も未然に防止できる。理事会や建物管理会社、管理員の怠慢は孤独死への道を作っていると言えないことはあるまい。

 

 ますます増え続ける孤独死。それに対応する会社(遺品整理・消臭・除菌・原状回復など)も続々と設立される世の中になってしまった。元気な高齢者は何故元気でおられるのか。一人ひとりが考えて、実践していかねばならないし、身体の弱った人々を手助けするのも、また大きな社会貢献と言えるだろう。(C.W)