張家口編 Part 8     ライター千遥



                

                              張家口 大境門
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 4日間お世話になった、Mさんの家とサヨナラすることになる。早々に、いつものように朝食を摂ると、
団地の出口にいる警備員に頼みタクシーを呼んでもらう。今回の旅行で、もはやこの団地に戻ることはない。Mさんを中心街の建外門にある事務所まで送り、そのあと北京西駅へと向う予定である。

 相変わらず、朝の車のラッシュは物凄い。渋滞する場所は決まっているのだが、どうしてもそこを通過しなければならない。途中の小道からドンドンと割り込んでくるから、車は完全にストップする。中国人には譲り合うという習慣はない(ように見受けられる)。とにかく、車の頭を突っ込んでしまえば勝ち !というものだ。

 この関門を突破しMさんを降ろすと、後はスイスイと走り目的の北京西駅に着いた。出発時刻までは未だ時間があるが、待合室へいくこととした。列車ごとに待合室が10室程度あり、どれもがとても広い。駅構内に入るには、空港と同じように荷物と身体を分離し、危険物を調べる。入出国検査と比べると検査は緩やかで、いつも引っかかる小銭入れも反応せずに通過した。

 待合室は既に一杯で腰掛ける余地はない。夏休みで故郷に帰る子どもたちも多いようだ。張家口までは3時間ほどかかるから、昼食がいる。売店では無難なパンと牛乳にした。インスタントラーメンでもよいが、以前食べたときは、味が日本と微妙に異なることが分かった。それでやめた。ラーメンは大盛りタイプで4元(60円)である。お湯は通常列車の後方に用意されており、無料で使えることが多い。しかしこれも、当てにしていると無い場合もある。今回は満席でとても後部まではいけない。パンが正解だった。

 列車の出発時間が迫ると狭い1か所の改札口に、たくさんの人々が殺到する。こちらは座席指定券を持っているから、と安心していたら大間違いになる。とにかく「郷に入らば郷に従え」を実践しないと、大変な遅れをとることになる。狭い改札を無理やり抜けてホームに出る。列車がかなり長いから自分乗るべき車両に辿りつくのも苦労する。1車両に乗り口は1か所しかないのが一般的である。ホームと列車の乗り口との段差が大きいのも、中国の特徴だ。だから、荷物が重いと大いに困る。

 やっと自分の車両に到着し、係員に切符を見せる。乗ろうと思ったら入り口に溢れた乗客で、とても乗れたものではない。乗り込もうとすると押し戻される。この様子を見た係員が乗り込み、通路に座り込んだ客などを掻き分け掻き分け、やっとわたしを指定席まで連れていってくれた。
 しかし、わが席には若い男性が平然と腰掛けている。係員はその男を怒鳴りつけて座席を空けてくれた。
かくして張家口へと向うことになる。
           

 改札口に殺到する理由が分かった。それは、座席指定券を持たない人たちが車両の好位置を確保するためなのだ。何処かといえば、それは洗面所であり、またトイレでもあり、乗り口の反対側であったりするわけである。汚物の散乱するトイレも臭いのと汚いのを我慢すれば、混雑する列車内では良い場所ということになる。
 隣りに腰掛けたのは小さな幼児であり、話す相手にもならない。北京を出てから1時間ほどウトウトしていると、周りは緑一杯の山々となった。進行方向の左側は山々が連なり、右手は谷川である。川は遥か下方を流れているが透明感があって清流といえそうだ。山肌をくりぬいた絶壁を走っている。地震でも起きたら転落は間違いないだろう。あくまでも青い空と白い雲、緑の山のおりなす景観は気持ちがよい。

 そのうち山を登りきったようで平坦になる。トンネルばかりくぐる。よく見ると川の向こう側も同じようにトンネルで列車が走っている。途中いくつかの駅に停まり列車の中も空いてきた。外は一面の畑となる。とうもろこしが多い。それに枝豆か。ところどころにポプラの並木が見える。羊の群れも見かける。やがて人家がポツリポツリと現れる。レンガづくりの工場らしき建物が続く。「下落園」なる駅も見えたが列車は停まらない。落花生の生産地のようだ。

 そのうち便意をもよおしてきた。トイレの中にいた男を外にだした。中に入ってドアを閉めようとしたら半分も閉まらないではないか。ここは仕方ない。悠然と用をたして出てきた。トイレットペーパーなどは無いのは当然である。そは先刻承知ゆえ、いつでも持参しているから問題はない。

 張家口も間近になったある駅で停車した。隣りの子どもが、食べ終えた弁当箱を窓から投げ捨てた。続いて母親も投げる。覗いてみると線路沿いはゴミの山だ。ズーッと皆が捨てたゴミが連なっている。何と言うことか。と思ったら、今度は飲み終えたペットボトルを皆が窓から放り投げる。こんどは、何事かと窓の外をみれば、おばあさんが一人いて落ちてくるペットボトルを集めている。

 「捨てる人あれば拾う人あり」。なーんて悠長なことではあるまい。わたしには、疑念の思いが浮かんできた。この夏場、ペットボトルの水は外に出るには必需品である。家から持参しない限りは何処かで買わねばならない。ミネラルウオーターは通常2元(30円)で売られている。ところが大勢の乗客や観光客などの集まる駅周辺の路上では、いかにも身なりの貧しいおばちゃんたちが連らなって1元でミネラルウオーターを売っている。それぞれがたくさんのペットボトルを抱えて...。

 ペットボトル、どう処理されるのだろうか。資源ゴミとして再度ペットボトルに作られるのだろうか。わたしは、このボトルはきれいに洗浄されたあとで、新たなウオーターを入れて売られているような予感がした。技術的には最終工程でのふたの密閉が難しそうだが、にせもの天国の中国である。ありえないことでは無さそうだ。半値で、おばちゃんたちが売る裏には、そんな仕組みがありそうに思えて仕方ない。

 こんな予感が的中しないことを祈っている。


   
       

     
   張家口の公園      鳩の宿舎      花嫁は何処へゆく
                                   
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 張家口の駅に着いた。正確には張家口南駅である。田舎であることは予測していたが、正にそのとおりで街という感じはまるでうけないのだ。近くに大きな建物も見当たらず、ただただ広い道路が広がっているだけだった。まずは余計な荷物を預けるためにホテルに直行する。せっせと車の清掃をしていた女性運転手のタクシーに乗り込む。もちろん可愛いおばちゃん運転手の隣りの助手席である。

 行き先を的確に指示するにも、雑談を交わすにも助手席が最も便利だ。目指すホテルは10分ほどで着いた。交通大酒店という。(
左図はクリックで拡大します)酒店とは日本でいう酒屋ではない。ホテルの一つの呼称である。中国で最も安い宿泊先の名称は、「旅館」と言う。日本円で300円か500円で泊まれる。日本で言えば昔の行商人が泊まったような宿であり、トイレやシャワーなどは個室にはなく、共通のものを使用する。
 流石にわたしも、この手の宿泊先には泊まったことはない。このようなところに泊まった若い友人の話は聞いたことがあるが、大きな荷物さえなければ泊まるのも一つの経験として面白そうだ。

 ホテルでのチェックインは簡単に終わった。何処へ行くにも、まずその地の地図が必要だ。フロントに聞いたら、ホテル内の売店にあった。地図さえあれば何とでもなる。もう午後の2時になる。ということで、さっさと外に出る。夜まであまり時間もないから、そんなに遠くまではいけない。それで街中を抜けて少し坂を上って小奇麗な公園に行ってみた。

 日本と変わらぬ立派なホテル、応対する案内のホテルマン、そしてフロントの女性たち。皆素晴らしいが一歩外に出れば様々な光景に出っくわす。そのようなところは無視して気持ちの休まる公園で、列車内の鬱積した気持ちをはらしたいと思った。
 予測したとおり、静かな美しい公園だった。立派な公園なのに人が少ない。公園内の遊具や器具からみると、若者や子ども向けではなく老人向けの施設と思われる。鳩舎から鳩が舞い降りて、足元で遊んでいる。数人の老人が運動器具で身体を動かしたり、卓球などを楽しんでいる。

 そんなとき木々の合間に、真っ白なウエィディングドレスをまとった女性とともに数人の男性が見えた。わたしは、すぐにピーンときた。中国では結婚すると、その記念として素晴らしい結婚記念のアルバムを作る風習がある。これは数年前に上海に短期留学したときに、その先生の自宅に招かれてご夫婦のアルバムを見せていただいたことがある。そこから直ぐに類推できた。わが団地に住む趙さんにも自宅で同じようなアルバムを見せていただいた。

 とにかく、被写体そのものはご本人には間違いないのだけど、メーキャップや衣装、そして撮影の場所などの背景やスタイリストなどによって、その出来栄えに工夫を凝らすのが特徴なのだ。だから始めてそんなアルバムを見た人は唖然とし、作品の見事さに驚くだろう。
 そんな写真を撮るためにこの静かな公園を選んだことは間違いない。随行した撮影隊の中に、円形の反射体を持っていることも確認した。後を追ってみたかったが、そこまではわたしにはできなかった。(つづく)


  
       

       
全民健身苑      なぜか健康用具・器具は黄色と青が多い
                              
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江澤民が寄せた言葉   全民健身 利国利民 功在当代 利在千秋